悪魔もやるときはやるんだよね。それを見せてくれる傑作に、私は出会いました。ハッピーです。
どうも、おのじ(@ozy_san_0624)です。
『バトル・インフェルノ』を観ました。

海外ドラマ「9-1-1 LA救命最前線」に出演しているライアン・グズマン主演という事だけで、鑑賞を決めた本作。
インチキ神父と本物の悪魔の対決を描いているのですが、予想以上の面白さでした。
これは傑作といっても良いのでは。
主演のライアン・グズマンの良さはもちろんのこと、ストーリー、グロ描写のクオリティも高く、大変満足のできる映画でした。これはおすすめ!
Contents
あらすじ
悪魔払いの儀式をネット配信するヤラセ番組に本物の悪魔が降臨したことから巻き起こる恐怖を描いたホラー。マックスとドリューはリアルタイムで悪魔払いの儀式を配信するヤラセ番組「除霊の時間」で荒稼ぎしていた。ある日、取り憑かれた人間役の俳優が姿を現さず、ドリューの婚約者レーンが代役として出演することに。しかしレーンは台本を無視し、まるで本物の悪魔に取り憑かれたかのように振る舞い始める。さらに、突如としてスタッフの1人が火だるまになって焼死してしまい……。
引用:映画.com
同名ホラーショートフィルムのリメイク
ダミアン・レベック監督の本作、実は同監督が2016年に製作した、同名のショートホラーが元になっています。
このショートフィルムは、YouTubeで観ることが可能です。
出典:YouTube
主要キャストは違うのですが、韓国警察官たちのシーンなど一部本作と同じ映像が使用されていたりと共通点があるので、観てみると面白いですよ。
本作の神父役ライアン・グズマンも素敵でしたが、ショートフィルムの神父役サム・イェーガーも、なかなか良い味出してます。
さてこのショートフィルム、アトランタホラー映画祭・Shriekfestでベストショートホラーフィルム賞を受賞、シアトル国際映画祭では最優秀短編映画賞にノミネートされていますし、IMDbでのレビューも好評でした。評価の高い作品だったんですね。
気になる脚本家は、アーロン・ホーウィッツ。
父はエミー賞受賞のドラマプロデューサーのエド・ホーウィッツ、兄弟は映画プロデューサーと、クリエイティブ一家の生まれだそうで。
ショートフィルムはアーロン氏単独の脚本ですが、本作はダミアン監督との共同脚本のようです。
視聴者を裏切るストーリー
本作の一番の魅力は、そのストーリー構成にあると思います。
ヤラセの除霊番組で、ドリューの婚約者・レーンに憑りついた本物の悪魔。その悪魔はレーンの命を盾に、マックス達にある要求を突きつけます。
それは、
- 番組がインチキであること
- マックスの過去や罪
これらを大勢の視聴者の前で暴露し、マックスに懺悔させること。
さらに悪魔は視聴者からコメントをつのり、コメントの通りに、マックスに服を脱がせて踊らせたり、怪我をさせたり。
最初は悪魔の意図がなかなか読めないんですよね。
悪事を暴露し謝罪させるなんて、本当に悪魔?まるで裁いているようにも見えるので、実は悪魔ではなく、恐ろしい天使なのでは?なんて疑ったほどです。
どちらであるにせよ、悪魔の目的はマックス達を苦しめる事が目的なのか?それならなぜマックス達がターゲットになったのか?
謎は多いですが、序盤から一貫しているのはこの2つ。
- 配信を止めない事
- 視聴者の数へのこだわり
悪魔はなぜか、中継することに強いこだわりを見せるのです。
悪魔が非常にクレバー!
ここで、悪魔の狙いが一体何なのかが気になってきますよね。その疑問には途中で1つの答えが与えられます。
それが「大勢の視聴者の前で悪魔が勝利し、人々に神の存在を疑わせる」というもの。
なるほど。これは悪魔の狙いとしてはまっとうですし、視聴者数に拘るのも分かります。
このシーンで私、悪魔も進化したよなぁと思いました。
昔は人に憑依して魂を堕落させていた彼ら。いわば1対1のタイマン勝負ですし、下手すると悪魔祓いされちゃう。
しかしいまや、動画配信という手段を使って「神はいないんだ」と人々に思わせれば、間接的により多くの人の魂を堕落させられる。
インチキ神父が相手だけど、目的は勝つことじゃなくて「自分が悪魔に襲われてたとしても、神の助けはない」と視聴者が思ってしまえば、それで充分ですもんね。
こんなに良い方法はない、うん。
いやいや、悪魔はもっとクレバー!
なんて思っていたら、まさかの2段構えでした。
実は悪魔の真の狙いは、「回線を通して多くの人々に憑依すること」。
この「Aと思わせておいて、真相は実はB」とうミステリーさながらの構造に驚かされましたし、その内容に思わず納得。
A「神はいないと人々に思わせる」よりも、B「回線を通して憑依する」の方が説得力があるんですよね。
確かに、動画で悪魔の存在と神の不在を見せつけたとしても、「これもヤラセだろう」と信じない人はいるでしょうし、「それでも神はいる!」という人も一定数いるでしょう。
だけど「視聴者に憑依する」のであれば、ほぼ確実に悪魔の目的が達成できちゃう。説得力が桁違いです。
中継を切らない事、視聴者数にこだわりを見せた理由にも、ここで再び「そうだったのか」と思わせられるわけです。
動画の視聴者、そして本作の視聴者の予想を裏切るこの結末、ひねりが効いてるなぁ。
2段構造で驚きと納得をくれるストーリー構成が、本当に素晴らしい。
しかも演出のテンポがとても良いため、全く飽きないしダレません。
傑作です。
ストーリーを彩るゴア描写と、ちょっとした不満点

ストーリーで楽しませてくれる本作でしたが、ゴア描写も結構良かったです。
本作では、主要人物であるマックス・ドリュー・レーン以外の動画スタッフ3人が悪魔に殺されてしまうのですが、その中でザ・グロテスク!だったのは火だるまのシーン。
皮膚が焼け、肉がただれ落ちる過程のリアルさがすごかった。
それと、悪魔映画ではお馴染みの「つきたてた爪がバキィッと剥がれるシーン」もありました。あれは観ている人の精神力を確実に削りますね。
悪魔に憑依されたレーンのメイクも、気合入ってました。特殊メイクではないと思いますが、血や体液にまみれた顔がなんともおぞましい。
過去にマックスとドリューを虐待していた女教師の幽霊も、ビジュアルが『インシディアス』の幽霊っぽくて良かったです。
彼女がもっと悪魔と絡んで出てくれば、さらに面白かったのにな~なんて思いますが、尺が足りないか。仕方ない、仕方ない。
こんな感じで、ゴアやホラーシーンには概ね満足だったのですが、スタッフの幻覚に出てくるクリーチャーのCGだけがちょっと残念でした。
造形云々というよりは、そこだけCG感がすごくて。
あとは、巷でちらほら言われているタイトル問題。
原題は『The Cleansing Hour』で、訳すると「除霊・浄化の時間」となります。
これ、タイトルそのままでも良かったのでは??なんて思いました。
バトル・インフェルノ…バトル、う~ん、まぁ、してるか?でもなぁ。バトルにあんまりなってなかったような印象だったなぁ。
インターネットへの皮肉?

ネット配信を取り入れた悪魔ものという、斬新な設定の本作。
なんでもネットを通じて拡散される現代と同じ舞台で、それを逆手にとっていくという悪魔の策略が面白かったわけですが、観ていて感じたのは、インターネットに対する皮肉というか警告というか。
「気をつけないと、足元救われるよ」というメッセージなのかも、と思いました。
本作はエクソシズムのようにみせかけて、実はそうではなく、終始悪魔の思惑通りに踊らされる人間の話でした。
どの情報が正しいのか嘘なのかなんて判断が難しい時もあるし、顔の見えない相手の悪意に触れてしまった時なんて、下手すると現実と同じかそれ以上に精神が摩耗してしまいます。
いつでもどこかと繋がっていて、欲しい答えをくれるインターネット。
便利な反面、情報に飲まれたり、騙されたり、危険な面も併せ持っているインターネット。
その危うさを、本作では「悪魔に利用される」という形で表現したのかな~、上手い構造だな~なんて、改めてしみじみ感じてしまいました。
承認欲求と名声欲の落とし穴
あともう一つ。
動画視聴者の中に男の子がいて、度々写っていましたが、彼の正体はなんと大統領の息子。最終的に悪魔に憑りつかれてしまった彼は、大統領である父を殺害。
悪魔とネットのせいで、国の運命も左右されちゃったんだ…と思うとぞっとしました。
そして、世界中で悪魔による殺人・暴動が起きはじめ、世の中は大混乱(最終的には1790万人の視聴者がいたので、その数の悪魔が降臨したことに…)。
そんな状況になりつつあるにも関わらず、事件直後のマックスのSNSは、フォロワーが400万人も急増。念願だった公式マークがついたのを見て、思わず微笑むマックス。
だけどいくらSNSの世界でフォロワーがついて認められても、
- 自分の手の指を2本も失い
- 兄弟のように育った友からも見放され
- 悪魔が何百万とうろつく世界に変貌
現実がこうなってしまっては、何の意味もありませんよね。
ここもね、現代の過度な承認欲求や名声欲を抱えた人々や現実とSNS世界の乖離へのメッセージがあるのかも?と思いました。
マックスのほほ笑むシーンはそれを象徴しているかのようで、とても印象的。
あの笑いは承認欲求が満たされた喜びから来るものだったのか、それとも自分の現状を皮肉に思っての笑いだったのか。
おわりに

以上、『バトル・インフェルノ』のレビューでした。
悪魔もののホラーといえば、最後は主人公側が勝つパターンが大半だと思っていました。
実際、私が今まで観た映画は、たまたまそういう作品が多かったんですよね。
だからてっきり今回も、インチキ神父が土壇場で悪魔祓いの力を発揮して、これからも悪魔と戦う事を決意する…というヒーロー展開だと思っていました。
だけどそうは問屋がおろさない。
ここまで爽快に悪魔が勝つ映画は中々珍しいし、そしてちゃんと観客を良い意味で裏切り、しかも納得もさせてくれる。
深読みしてみるとそれはそれで楽しいという、まさに傑作映画だと思います。
未体験ゾーンの映画たちで鑑賞する映画、好みに合うホラーが多くて、ほんと嬉しいわぁ。あともう少しで、今年の分終わっちゃうんだよなぁ。
それが寂しい今日この頃です。
作品情報
原題 | The Cleansing Hour |
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製作年 | 2019年 |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 95分 |
監督 | ダミアン・レベック |