どうも、おのじ(@ozy_san_0624)です。
今回はドイツ製のサイコスリラーサスペンス『カット/オフ』の感想を書いていきます。

この映画、めっちゃ面白かったですよ。
ストーリーの舞台となるのが、嵐で隔絶されてしまった孤島。
主人公がその島に行けないという絶望的な設定。
怪しい人物の存在と、タイムリミットが刻々と迫る焦燥感。
こんなところが非常に好みなだけでなく、観客をだましてくれるトリックもしっかり盛り込んでくれているサービスぶり。
とてもハイクオリティなサスペンスでした。
これはネタバレしないで鑑賞したほうが100%楽しめる映画ですね。
欧州サスペンス独特の薄暗くて静かな映像の雰囲気も、緊張感に拍車をかけていてよかったなぁ。
だから好きなのよね、欧州ミステリー。
※鑑賞後の感想を語っているので、盛大にネタバレしています。未見の方は、視聴後に読むことをおすすめします。
『カット/オフ』はU-NEXTでも配信中です。

本ページの情報は2020年8月時点のものです。
最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。
Contents
カット/オフ:あらすじ
囚われた愛娘を救うべく奔走する検死官の戦いを描いたドイツ製サイコスリラー。検死官のポールは、運び込まれた女性の遺体の頭部から紙切れを見つける。そこには、ポールの娘ハンナの名前と電話番号が書かれていた。ハンナは「指示に従わないと殺される」と話し、エリックという人物から指示を受けるようポールに伝える。しかしエリックに電話を掛けると、電話に出た女性リンダは「エリックは死んだ」と話し……。
映画.com
カット/オフ:登場人物
主人公。ドイツで検視官として働く。離婚した妻との間に、ハンナという娘がいる。ハンナと一緒の時間を過ごしたいと思っているが、年頃の娘が何を好むのか分からず、拒絶されてしまう。
17歳のポールの娘。年頃のためか父親にはやや反抗的。ポールと面会した後、誘拐されてしまう。
元カレ・ダニーの暴力から逃れるため、ヘルゴランド島に来ている女性。嵐で島から出られなくなる。海岸で死体を見つけ、死体が持っていた携帯の着信に出たことで事件にかかわることになる。
ポールの働く検視局に、インターンとして来た青年。その割には検視に対する知識がなく、ポールに追い出されてしまう。ハンナが誘拐された後、ポールに協力し行動を共にする。
ヘルゴランド島の用務員で、ポールとも知り合いの男性。リンダと一緒に海岸の遺体を病院へ運ぶよう、ポールに依頼される。
舞台はドイツと、ヘルゴラント島

まずは本作の面白かったポイントを2つ、ネタバレ軽めで書いていきます。
本作の魅力のひとつは、ドイツとヘルゴラント島という2つの舞台があること。
ちなみにヘルゴラント島は、ドイツ領の小さな島です。
ドイツとの位置関係はこんな感じ。

ドイツでは主人公ポールと検視局インターンのインゴルフペアが事件の調査を。
ヘルゴラント島では旅行者のリンダと住民のエンダーペアが、電話でポールの指示に沿ってエリックの遺体を解剖します。
序盤のストーリー

さて、おおまかなストーリーの流れはこちら。
- ドイツハンナの誘拐事件発生。ポールはハンナを救出するため、犯人に指定された「エリック」という男性に連絡を取る。
- ヘルゴラント島嵐のせいでヘルゴラント島は出入り不可能。島の海岸で、リンダがエリックの遺体を発見。彼が持っていた携帯にポールから着信があり、リンダが出る。
- ドイツヘルゴラント島に行けないため、たまたま居合わせただけのリンダにポールが協力を依頼。ポール自身も本島で事件の手がかりを探す。
- ヘルゴラント島リンダが電話でポールの指示を受けながら解剖し、事件のヒントをポールに伝える。
本当であれば、検視官のポールが遺体解剖をしたほうが絶対にスムーズ。なんてったって本職だもの。
ですが嵐のせいで、ポールがヘルゴラント島に行くことができません。
ヘルゴラント島にあるエリックの遺体には、犯人の残した手がかりが隠されています。
それを見つけるのが遅れれば、ハンナの命が危ない。
だからリンダもかなーり嫌々ながら、ポールに説得されて解剖を引き受けてくれるのです。
(エンダーは遺体を運ぶのは手伝ってくれるけど、解剖なんて俺には無理!とリンダにお任せしちゃう 笑)
足元がおぼつかない緊張感が良い

電話の指示があるとはいえ、解剖知識ゼロのリンダが検視なんてできるの…?なんていう疑問は置いておいて。
このリモート検視という一見まどろっこしい設定、映画の緊張感を増してくれていて、すごく良いです。
それだけじゃなく、検視をする環境も良い。
- 検視はヘルゴラント島の病院で行われるが、嵐のせいで病院は無人状態。(それってどうなんだろう?って感じだけど…)
- 静まりかえった病院の解剖室で、素人二人がリモート検視。
- しかも解剖するのは、少女誘拐事件が絡んでいる遺体。
- おまけにリンダに暴力を振るっていた元カレ・ダニーが、病院に潜んでいる可能性まで浮上。
これだけの悪条件、緊張しないほうが無理ですね。
ワクワクしないほうが無理!
犯罪者が潜んでいるかもしれない無人の病院という、状況の不安定さがとにかく良い。
それに静まり返ったところに音が聞こえてきたり、背後を人影がよぎったりと、演出がまるでホラー。素敵すぎる。
劇中のBGMがほとんどないのも、不安感を増してくれます。
不安と期待と恐怖の入り混じった状況の作り方、素晴らしい映画だよね~。
完全にだまされたニクいトリック

ここからはネタバレ全開で語っていきます。未見の方はブラウザバックをお願いします。
本作で素晴らしかったのは、設定と演出だけではありません。
終盤からの怒涛の伏線回収と、明かされるトリックの種あかし。
ここがすごかった。カタルシス~ってやつです。
その1

ニクいトリックの一つ目は、時系列の入れ替えです。
本作は、
- ポール&インゴルフ
- リンダ&エンダー
- ハンナ
この3場面が切り替わりながら進んでいきます。
ポールやリンダが調査を進めるなか、誘拐・監禁されたハンナは見知らぬ男にレイプされてしまい、しかも犯人の男に自ら死ぬようそそのかされて、最後には首をつってしまうという。
見てられません…。
なんとも見るに堪えず、「早く!早くハンナをロープから降ろしてあげて!今ならまだ間に合うから~!」となってしまうシーンです。
ポールやリンダたちは、ハンナの救出に間に合うのか?という本作の緊張感や焦燥感は、このハンナのターンがあるからといっても過言ではありません。
ところが、これが罠なんですよね。
ポールたちとリンダたちの調査は、時系列に沿って展開されます。
なのでなんとなく、ハンナのシーンも同じ時間軸の中で起こっていることと思い込んでいました。
ところがハンナのシーンは、実はずっと昔に起こった過去の出来事。
正確には、過去の誘拐・レイプ事件の被害者の様子をビデオで見せられている、ハンナの視点なのです。
これにはまんまと騙されたよね~!
分かった瞬間の「ハンナが無事だった…!」という安堵と、「してやられた!」というある種の爽快感が、なんとも気持ち良いトリックです。
その2

「その1」で書いたように、本作では時間軸のトリックが使われています。
そしてそれだけでなく、人物のすり替えトリックがあるのもニクいところ。
これは「ビデオに映っている被害者とハンナを、同一人物と誤認させることができるかどうか」が肝になってきます。
私は全く気づけませんでしたが、本作のレビュー見ると、「あれ?別の子だ。」って気づいちゃった方もいるみたいですね。
気づいた人の観察力、まじですごくない?
とはいえ私は気づかなかったからこそ、種明かしされたときの爽快感と興奮を味わうことができました。
これがサスペンスやミステリーを見ていて、一番嬉しい瞬間なんだよなぁ。
後半に一気に増える登場人物

人物入れ替えのトリックは、実はリンダが解剖した遺体エリックにも使われています。
遺体は本当はエリックではなく、フィリップという男性でした。
フィリップて、だれ?
そしてこの事件は、フィリップとイェンスという2人の人物によって仕組まれていたのです。
ねぇ、イェンスって、だぁれ?
中~後半にかけて新しい登場人物がいるのですが、書くのがめちゃくちゃ長くなりそうなので、こちらをペタリ。

この映画内で一番初めに殺害されたのは、リリーという少女。
彼女はエリック・ヤン・サドラーという男に拉致監禁、レイプされ、最後には自ら死を選ぶよう仕向けられます。
リリーの父イェンスは、ポールの元同僚の検視官。
イェンスはポールに、リリーは自殺するように仕向けられたこと、エリックは立派な殺人犯であることを訴えます。
そしてエリックに重い判決を下させるために、協力してほしいと依頼するのです。
しかしポールは、検視結果は「自殺」という結果になること、嘘の検視報告はできない、とイェンスの依頼を拒否。
まぁ、それは間違いではないんだけれど…。
しかしここからが悲劇の連鎖の始まり。
当時裁判官だったフリーデリケは、エリックに強姦罪のみの判決を下します。刑期はたったの4年足らず。
娘を奪われたイェンスにとってあまりに軽すぎる罰だし、見ていて私もそう思いました。
イェンスの絶望が切ない…。
この判決は当時世間でも大問題になり、その後フリーデリケは早期退職することに。
刑期を終えたエリックは、イェンスが危惧したとおり、またも同様の手口で少女を殺害します。
その少女が、フィリップの娘レベッカだったわけです。
ちなみにハンナが見せられたビデオに映っていたのは、レベッカです。
ポールへのメッセージ

リリーやレベッカの事件は、非常にやるせなかったです。
イェンスやフィリップが、「あの時ポールが協力してくれていたら」「フリーデリケの愚かな判決がなければ」と思ってしまうのも無理はありません。
少なくともレベッカの事件は、防げたかもしれないのですから。
規則や司法の穴をついて悪人が得をし、被害者遺族が苦痛を味わうような世界。
そんな世の中に憤りを感じてしまっても仕方がない…と、ついついイェンス達に共感してしまいました。
ハンナの誘拐事件を通して、イェンス達はポールに何を感じて欲しかったのでしょうか?
守らなければならないものが立場によって変わってしまう(それが法やルールであっても)というのは、何となく想像できます。
法や道徳を一番に考えるのであれば、ラストシーンでのポールの行動は許されない。
だけどハンナの安全を第一に考えるなら、とたんにポールの行動は一定の共感を得られますよね。
自分の家族が奪われる痛みをポールに実感して欲しかったのかもしれませんし、「何が正しいのか。ポールの決断は、正しかったのか」を考え直してほしかったのかもしれない。
何がイェンス達の真意なのかはくみ取り切れなかったけど、ハンナの誘拐事件は、イェンス達からポールへのメッセージだったんだろうなぁ。
意味ありげな描写が相次ぐ、あの人物

ひとつ気になるのは、やっぱりインゴルフの存在。
彼が黒幕なのでは?なんてさんざん考察されているインゴルフ。
作中ではっきりと彼が事件に関与している描写は最後までありません。ですがそう疑ってしまうだけの怪しい演出が、やっぱり多いんですよね。
ハンナが電話でポールに言った「パパは監視されてる」という言葉のあとに、ポールに対して妙にしつこく接近してくるインゴルフの様子だったり。
妙にタイミングよく手がかりの謎を解いたり。
何となく怪しい。一旦そう感じてしまうと、彼の一生懸命で天然に近いキャラクターも「わざとなのでは?」なんて思えてくるんです。
なかでも一番怪しいのはラストのシーン。
ヘリでヘルゴラント島からドイツへ戻るポールとハンナ。インゴルフに一緒にヘリで戻るように声をかけますが、彼はそれを断ります。
そのあと離陸したヘリに一緒に積まれていた遺体袋から、エリックが登場。警察の手をかいくぐって隠れていたんですね。
エリックはポールたちに襲い掛かるも、反撃にあいヘリから転落。おそらく(今度こそ)死亡したのだと思われます。

この一連のシーンの中で、なぜかインゴルフの背中がアップで映るのですが、これがめちゃくちゃ意味ありげ。
ま、まさかあんた、全部知ってたんじゃ…?恐ろしい子…!
そう思わせる描写なんですよね。黒幕感に満ちあふれてる。
リリーの検視の時には「嘘の検視報告はできない」と言っていたポール。
そんな彼が自分の娘を救出するために、どこまでルールを守るのか?
もしかしてそれを観察したくて、イェンス達を操って舞台を整え、ポールに接近してきたのではないでしょうか?
ルールなんて、そんなの最初っからポーイ!って感じだったけどね、ポール。
ヘリの中でポールがエリックの手を切り落とし、わざと地上へ落とすシーンがあります。
インゴルフが黒幕だったとすると、それこそ一番近くで見たいポールの姿なのでは?と初めは思いました。
ですがこれまでのポールの行動を見ていれば、最後にエリックに襲われたときの行動は予測できるわけで。
見るまでもないよ、わかってるよ僕は、っていう。そういう背中だったんじゃないのかなーって思うんですよね。妄想しすぎ?
そう考えると、インゴルフはとんでもないサイコパスだったんじゃない?なんて想像しちゃうわけです。
おわりに

以上、『カット/オフ』の感想でした。
本作の事前情報を何も得ずに鑑賞しましたが、予想以上の面白さでした。
もっと評判というか、「これ面白いよ~!」っていう噂があっても良いのにね。
ドイツのサスペンスって初めて鑑賞したと思うのだけど、かなりのハイクオリティ映画でしたし、他作品も探してみようかな?
原作はドイツのベストセラー小説ということで、こちらも気になります。
探してみましたが、どうやら日本では発売されていないようですね。無念すぎる。
翻訳版とか、出ないかなぁ。
ほんでわ、またね~。
作品情報

原題 | Abgeschnitten |
---|---|
製作国 | ドイツ |
製作年 | 2018年 |
上映時間 | 132分 |
監督 | クリスチャン・アルバート |