どうも、おのじ(@ozy_san_0624)です。
作家乙一氏が、本名・安達寛高名義で脚本・監督を手掛けたホラー映画『シライサン』。
1/10、ついに公開されましたね。学生時代に乙一小説を読んでいた一ファンとして、本作の公開をものすごく楽しみにしてました。
しかも本作は映画だけでなく、小説・コミックでもメディアミックス展開されていて、小説は乙一名義では4年ぶりの新作。
「これは読まねばなるまい!」と公開前に小説版をゲットして予習しておきました。小説もこれまた、良いホラー味出してましたよ~。
せっかく小説・映画の両方みたので、今回は「映画版・小説版の感想」、「両作の違い」、こんなところをポイントに感想を書いていきます。
Contents
あらすじ
眼球の破裂した死体が連続して発見された。直接の死因はいずれも心臓麻痺で、死の直前に何かに怯え、とり憑かれた様子だったという奇妙な共通点があった。親友を目の前で亡くした大学生の瑞紀と弟を失った春男は、ともに事件を調べ始める。2人は事件の鍵を握る女性・詠子を探し出すが、ほどなく彼女は「シライサン……」という謎の言葉を残し、一連の事件の被害者と同じように死んでしまう。事件に目をつけた雑誌記者の間宮も加わり、「シライサン」の呪いが徐々に明らかになっていくが……。
引用:映画.com
予習は必要か否か
まず気になる予習の必要性ですが、これは小説読んでから見た方が断然面白いだろうなぁというのが率直な感想でした。
というか、読まないで行くと謎や回収されない伏線が多くて、観終わったあとに「はて?」となるような気がする。
私が小説読んでから行ったから、余計にそう感じるのかもしれませんがね。
予習できなかったとしても、映画を観終わった後でも小説を読んでおくと、映画で感じる謎がかなりすっきりすると思います。
小説版のシライサンは
シライサンのストーリーは、
- シライサンという女が出てくる怪談を聞くと呪われてしまう
- 呪われた本人にだけシライサンが見える
- シライサンに追いつかれると、眼球破裂を伴う心不全で死んでしまう
というものです。
シライサンという怪異については、当然ながら映画よりも小説の方が詳しく描かれていて、シライサンの正体や、一体何を目的に呼び出されているのか、なぜ3日ごとに現れるのか、という所も分かります。
一番の魅力は、シライサンを土着信仰の面から掘り下げてゆく過程や、終盤でシライサンが都市伝説として広まってゆく様子。
登場人物の心情も詳細に描かれているので、感情移入もしやすかったです。
特に
- 目隠村の存在
- その村の巫女や儀式
- シライサン=死来山
といった民俗学や土地特有の信仰の視点には、めちゃくちゃホラー魂を揺さぶられました。
そういう古い所から、現代的なSNSでシライサンが都市伝説として変遷していくのがまたすごく良くってたまらない。
それと小説版のラストががすごく良かった。
シライサンの由来や現れる理由が分かることにくわえて、最後に嫌感の残る謎を残してくれますので。
その謎についても、ある程度自分で推測ができるけど、確信は持てない…くらいのバランスにしてくれているのが嬉しいところ。何なんだろう、この絶妙感。
このために、私は小説を読み終わった後に「シライサン」の考察サイトをめぐることになりました。
読み終わったあとに「あぁでもない、こうでもない」と考えて楽しめるって最高。
映画のストーリーは?
映画と小説で大きく内容の変更はありませんが、映画では民俗学や土着信仰の部分についてはほとんど触れられていません。ちょっと会話の端に出るくらい。
つまり、シライサンの正体や由来も映画では明らかにはならないんですよね。
シライサンを語る上で重要と思われる人物も、ワンシーンくらいしか出てこない。巫女なんですか?誰なんですか?って感じ。
これがちょっと寂しかった所だし、映画中盤~終盤にかけて失速感を感じる原因だったかなと思います。
どうしても話が突然終わっちゃうような印象が残っちゃいましたしね。
でもそれは、先に小説を読んじゃったから、余計にそう感じる部分もあるのかも?
映画で感じた疑問が小説で分かるようになってるんだったら、映画観た後に小説読んだ方が良かったのだろうか?映画撮影終了後に小説執筆をしたという事だったし。
でも小説の方が先に発売されてるしなぁ。だけど結局どっちを先に見るかかんて、個人で好きなようにすればいいじゃんってことになるのか?あ、なんかわかんなくなってきちゃった。
話を戻して、じゃあ映画は小説の省略版なのか?というと、そんな事はありません。
主人公瑞紀がシライサンの対応策を提案するシーンがあるんですが、これは小説版にはなかったシーンです。
噂が広がりシライサンを知る人間が増えるほど、個人がシライサンに遭遇する確率が減ってゆくというものなのですが、ここにはかなりしっくりきました。なるほどぉ、と。
というか、そんなこと考えれる瑞紀が冷静でびびる。
結局それが実行に移されたのかどうか…は劇場でのお楽しみになります。
それから、エンディングも小説版とは異なりました。
ある”仕掛け”がクレジットにあって(これ見逃しちゃうともったいない)、それにより映画の意味が変わってくるという構造になってるんですね。これが良かったですよね~。
シライサンの怪談自体が、「物語だと思っていたら、聞いている人間を最後に巻き込んでいく」という性質のもので、それ自体が前振りになってたんだなぁと。
このメタ構造が面白かったです。
クレジットにこういうサービスを入れてくれるのって、嬉しくなっちゃうよなぁ。
で、肝心かなめのシライサンのビジュアル、どうだった??
一番気になるのはやっぱり、肝となるシライサンのビジュアルと登場時の演出。
今作でどうだったのかというと、もう良かった~~めちゃくちゃ良かった~。
ちゃんと、めちゃくちゃ、怖い。
映画公開より先にコミックと小説がリリースされてるのって、ある意味ハンデをしょってる状態だと思うんですよね。
特に小説は文字しかないから、事前に読んでいった人は一番怖い各々のシライサンのイメージが頭に出来上がっているはずで。
その観客を納得させるために、一体どんなシライサンを出してくるのか。
恐怖表現においても、映画と小説とではまったく違っていて。例えば映画ではお化けのビジュアルが出てしまうと、ホラー慣れしている人はそこで怖さがなくなってしまう。だから、どれだけビジュアルを見せずに観客の想像力を刺激するかが大事なのですが、シライサンは見つめていないと襲ってくるという設定なので、足元だけを映したりとか、いかにして焦らすかに苦心しました。
引用:リアルサウンドブック
このインタビューを読んでたから、いっそう楽しみでした。
ホラーファンの気持ちを知っていてくれる乙一氏がどんな演出を仕掛けてきてくれるんだろうかと。
で、実際見たシライサンはどうだったのかというと、期待以上に怖かったわけです。
鈴の音が聞こえて振り向くと、遠くでうずくまっている和服の女。
その女が立ち上がってこちらを向く、そのゆっくりとした動作。
それなのに一瞬目を離しただけで、ありえないスピードで自分に近づいてきている、というその差が怖い。
それにわざわざ鈴の音で存在を知らせてくる所に、一思いにやってくれない怖さがあります。
これによってシライサンのテーマでもある「目をそらせない」という地獄に引っ張っていかれるんですよね。
じわじわとした怖さと、どきっとさせる演出の緩急がもう嫌だ(誉め言葉)。
ちなみにシライサンがつけている鈴は、劇中では目隠村においての「死者が戻ってきたときに知らせるための習慣」とさらっと紹介されています(死者が戻ってくるという前提がまず怖い)。
これは「ジェーン・ドゥの解剖」が元になっているのだそうで。
どうりで怖いわけ。
それからインタビューで乙一氏が話している通り、ホラー映画で相手の全貌が分かっちゃった時って怖さが半減するものですけど、シライサンは顔が分かってもなお怖い所が一番良かったです。
目が異様に大きく、全く表情の読めない顔。
ただれた口元。
和服姿に長い黒髪。
あの顔から目をそらしたらいけないなんて、何というS。あぁ、やだやだ、思い出すと電気消せない。
シライサンは貞子・伽椰子と並ぶアイコンとなりうるか
ビジュアルのインパクトがすごく良かったシライサン。
長らくJホラーといえば貞子と伽椰子っていうのがあって、その壁は厚く高すぎるものだったと思うんです。
ちょいちょい面白いJホラーは出ていても、アイコンとまでなるものはほとんどなかったですよね。
Jホラーといえば?と聞かれれば、いつまでも貞子。いつまでも伽椰子。
ハリウッドリメイクもされちゃうくらいだし、2人で対決もしちゃってるし。
だけど、いつまで2人で頑張らなあかんの?そろそろ若い子欲しいよね?だよね~ちょっと疲れたよね~ってサダカヤも思っていたはずなんです。多分ね。
そんな中にシライサンは見事割って入れるんでは?
内容が印象に残りやすくて噂話にもってこいで、呪いの伝播の手段が容易なわりに代償が大きすぎるという、サダカヤと共通の王道をおさえてますし(この点、伽椰子にいたっては理不尽の限りを尽くしてる)。
しかも伝播の手段においてはシライサンが一番拡散しやすく、パワーアップしてるとも言えます。
貞子は基本ビデオテープを見るという手間があるし(動画やディスクもあるけど)。
伽椰子は家にいくか、呪いを受けた人との接触(これがやっかい。ほぼもらい事故。)が条件。
その点シライサンは「怪談話の内容とシライサンの名前を憶えている」事が条件ですから、聞いて良し、文で読んで良し、とハードルがぐっと下がってます。
テキストでも動画でも、ポッドキャストでだって呪えちゃうわけです。
インターネット・SNSが普及している現代で爆発的に広がる可能性を秘めているんですから、怖いわぁ。
そしてシライサンは、人が元になった怨霊ではないんですよね。
人の形はしているけど儀式によって呼び出された山の神のような存在で、人を呪い殺す代償として、〇〇〇を呼び戻してくれる…という。(ここは映画では描写されてませんが)
貞子・伽椰子とは存在自体が別物で、呪いに見返りがある(というか、ある目的のために呼び出されている)という差別化もされているし、王道と現代的な要素を兼ね備え、ビジュアルも申し分ないシライサン。
貞子や伽椰子に並ぶJホラーアイコンとして魅力十分だなぁと思います。
さいごに
余談ですが、シライサンのビジュアルは怖いけど目が大きいので、マスコットやキーホルダーにしたら貞子や加耶子より可愛くなると思うんですよね。
キーホルダーが出たら、ぜひ欲しい。あと今はやりのもこもこのマスコット人形。
和服の上に来てる羽織というのかどんぶくというのか。あれもマスコット化されたら可愛い要素のひとつ。
そんな事を考えていたら、昔お台場で買った貞子のうちわの事を思い出しました。
イラストになった可愛い貞子が花火をバックに涼んでいる絵が書いてあって、結構好きだったんですけど。
あれどこにいったのかなぁ。
作品情報
原題 | シライサン |
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製作国 | 日本 |
製作年 | 2020年 |
上映時間 | 99 分 |
監督 | 安達寛高 |